東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)118号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の特許請求の範囲の記載及び本件審決理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、拒絶理由通知書の理由1、2及び4により指摘された事項に関し、本願明細書の「発明の詳細な説明」及び「特許請求の範囲」の記載が特許法第三六条第三項及び第四項に規定する要件を満たすものであるか否かについて判断する。
1 前記本願発明の特許請求の範囲の記載に、成立に争いのない甲第二号証(出願当初の明細書及び図面)及び甲第三号証の二(昭和五六年一月九日付手続補正書)を総合すると、本願明細書には全体を通して語句の不統一や意味の不明瞭な表現が極めて多く、発明の詳細な説明の理解を極めて難解にしているうえに、「発明の詳細な説明」と「特許請求の範囲」における用語にも不一致(拒絶理由通知書指摘のほかに、例えば、「積荷(弾込)位置((38))」と「アダプターユニツト38」、)があり、更に特許請求の範囲における「グランドベース」、「積荷ユニツト」及び「前進するブロツク」などの表現が、「発明の詳細な説明」における何に対応するのか不明瞭なことなどの記載上の不備のあることが認められるが、これらの点はともかくとして、本願発明は、「高速機関銃の弾丸の装填及び弾抜き、連続的供給、及び貯蔵装置に関する。」(第一頁第一九行ないし第二〇行)ものであり、少なくともその構成において、地上側にある弾丸装着装置と航空機側の弾丸装着装置との間において、地上側から航空機へ実弾を供給し、同時に発射済みの空包を航空機側から地上側に移送するための第一の態様(装填態様)と地上側は地上側で、航空機側は航空機側で弾丸を循環させる第二の態様(バイパス態様)を可能にするという基本的な構成を備えたところの航空機装備用自動兵器用の装弾装置に関する技術の開発を意図したものであることを窺うことができる。
(拒絶理由通知書の理由1について)
2 ところで、前掲甲第二号証及び第三号証の二によれば、本願明細書の第四頁第一三行ないし第五頁第三行及び第一九頁第一二行ないし第一九行には、本願発明の目的及び効果に関し原告主張のような記載があることが認められるが、目的として記載された「(ア)兵器の…、複雑性、補守及びコストを低下する、(イ)リンク機構をなくすと共に、直接的後方支援コストをなくする」との記載が具体的にどういうことまでを意味しているのか明瞭ではなく、かつ前記の拒絶理由通知書において指摘されているように、本願発明の目的として記載された前記認定のとおりの記載内容のうち、本願発明の基本的構成とされているバイパス態様と装填態様との二つの作動態様を設けた構成が、本来目的としているのはどれなのか、またその目的がその作動態様を設けたこととどういう関連もしくは関係において実現されることになるのかについては、本願明細書に開示されていない。
また、前記認定の本願明細書における効果に関する記載についてみても、バイパス態様と装填態様の二つの態様を設けたこととの関連で述べられてはいないから、果たして、右の記載がバイパス態様と装填態様との二つの態様を設けたことによる直接の効果といい得るかについても疑問があるといわなければならない。そして、原告の指摘する本願明細書の記載のほか、本願明細書の他の記載をあわせ検討するも、原告の意図にもかかわらず、本願発明におけるその目的及び効果と、構成要件との関連は不明瞭であり、当業者においても、「発明の詳細な説明」に記載された発明である技術的思想を適切に理解することはできないものと認められる。したがつて、拒絶理由通知書の理由1の指摘は正当であり、本願明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとみることはできない。
(拒絶理由通知書の理由2について)
3 前記認定に係る「発明の詳細な説明」における「(オ)信頼することができ、かつ安全なRADHAZ保護装置を提供することである。」との目的に関する記載及び本願明細書の第四頁第四行ないし第一二行、補正された第五頁第四行ないし第九行の記載を総合すると、本願発明は、航空機に実弾を供給し、同時に発射済みの薬莢を航空機から地上に取り出す際に実弾を電磁的放射線による起爆の危険のある環境のなかに置くことによつて起爆させるというおそれがないようにすることを目的ないし解決すべき技術的課題としていることが推認され得るところ、本願明細書の「発明の詳細な説明」には、この電磁的放射線による起爆の防止という課題を達成するために不可欠な構成要件を明確に規定する記載が見いだせないので、いかなる技術的事項を内容とする構成によつて、右の重要な技術的課題が達成実現されるのかが理解できない。原告の指摘する本願明細書の記載によつて、起爆防止のためにバイパス態様と装填態様とを設けたことが理解できるとしても、その構成と右の解決すべき技術的課題を達成するための他の構成との具体的な関係ないし関連については何ら記述されていない(二つの作動態様を採用したことのみで右の技術的課題が達成されるものとは考えられない。)ので、どのような具体的な構成を採用したことによつて実弾の電磁的放射線による影響による起爆の危険を回避し得ることになるのかはなお理解し難いことである。したがつて、拒絶理由通知書の理由2の指摘も正当であり、この点においても、本願明細書の「発明の詳細な説明」の記載は、特許法第三六条第四項の規定する要件を満たしているとはいえない。
(拒絶理由通知書の4について)
5 補正後の本願発明の特許請求の範囲の記載が、請求の原因二記載のとおりであることは、当事者間に争いのないところであるが、特に拒絶理由通知書4の理由が指摘するバイパス及び装填態様との関連で、前記認定のとおり本願明細書の「発明の詳細な説明」に記載された発明の構成、その発明の目的及び効果を明確に理解し得ないから、この点からしても、どのような技術的事項が特許法第三六条第五項に規定した「発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項」に当たるのかが理解できないことになる。原告は、特許請求の範囲の記載に基づいて本願発明を請求の原因四1に主張するような技術的内容の発明として理解できる旨主張するが、特許請求の範囲の記載には、各構成要素相互の関連についての記載がなく、かつ(原告主張の技術的内容と対比すると)表現の欠落もあることから、被告が主張するように、そこから原告主張のような技術的内容を把握することはできず、原告の右の主張は、特許請求の範囲の解釈の域を越えたものというべきである。この点は、前掲甲第二号証によつて認められる本願の出願当初の明細書における「特許請求の範囲」に拒絶理由通知書の理由3で指摘された部分的な構成が明らかになつた点を考慮に入れても、結局、本願明細書の「特許請求の範囲」には、その補正の前後を通じ、「発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項」がすべて記載されているとは認められないから、拒絶理由通知書の理由4の指摘も正当というべきである。
6 右のとおり拒絶理由通知書の理由1、2及び4で指摘した不備の点は依然として解消されていないのであるから、本出願は特許法第三六条第四項及び第五項に規定する要件を満たしていないものというべきであり、これと同旨の本件審決の判断は正当であつて、何ら違法の点はない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。
よつて、これを棄却することとする。
〔編注〕本願発明の特許請求の範囲の記載(昭和五六年一月九日付手続補正書)は左のとおりである。
エンドレスのコンベヤベルトを備え、そのコンベヤベルトは個々の弾丸を貯蔵位置から受け、兵器を通過してそれを移送し、貯蔵庫に空のシエルを戻すものであるところの、航空機装備自動兵器用の装弾システムにおいて、コンベヤベルト(シユート24)は積荷(弾込)位置(38)を通過して案内され、その位置にはグランドベースの積荷(弾込)装置の移送ユニツト(52)が連結され、その装置はまた貯蔵庫に連結されたエンドレスのコンベヤベルト(シユート50)を有し、積荷ユニツトをこえて後へ通過されまた向け直し装置(スプロケツト120、122、124…)が備えられ、それは弾丸あるいは空のシエルを兵器のコンベヤベルト(シユート24)から装弾装置のコンベアベルトの復帰ブロツク(54)へ移送のためのものでありまた前進するブロツクから兵器の空になつたベルトコンベヤへの弾丸の移送のためのものであることを特徴とする航空機装備自動兵器用装弾装置。